
東京 歯科のギャラリー
事務論というのは、ペイオフということになった時に、事務的にそれがとどこおりなくできるかどうかの話であって、ペイオフを実際に解禁すべきかという話とはまったく違う、極めて次元の低い話であるということである。
いくら個々の銀行が事務的にペイオフに対応できるようになっても、それをやったら経済と金融システム全体が崩壊してしまう可能性はいくらでもある。
だからこそアメリカの超例外的なケースを除き、どの国もペイオフなどやっていないのである。
ましてや、株価の下落などでシステミックリスクが限りなく高まっている今の日本でペイオフ解禁を議論することは極めて危険なだけでなく、不必要でもある。
冒頭のモラル・ハザードの問題は、国民何千万人に迷惑をかけなくとも世界中の政府がやっているように、検査当局の監視体制を強化することで対応できるからである。
K政権にとってのベストシナリオは、本当の意味での質的な変化を意味する構造改革(規制緩和、支出の見直しを含む行政改革、民営化等)を、他の三つの戦後処理(財政再建、不良債権処理とペイオフ解禁)から切り離し、みずからの政治エネルギーは前者の規制緩和に全力投入し、後者の財政再建と不良債権処理といった課題は極力現実路線で行くことだろう。
先日会った連立与党の要人によると、当初からの三党合意は質的な構造改革に関するもの(つまり上述の規制緩和や財政支出の内容の見直しなど、日本の仕組自体を変えるもの)であり、量的な話ではなかったという。
ペィオフはそもそも銀行を淘汰するためにあるようなシステムである。
しかし、合成の誤謬が発生して決定的に需要が不足している今は、淘汰しなくていいものは、できるだけしないほうがいいのである。
あらゆる産業で、淘汰しなければならないものを探せばいくらでもある。
しかし、全部を同時に淘汰してしまえば、米国のF大統領が七○年前に証明したように、経済全体が縮小して大恐慌の世界になってしまう。
今のようなバランスシート不況の時はできるだけ企業は生かしておくべきであって、それが経済全体の生産性が落ちるのをぎりぎりのところで抑える最良の手段なのである。
この切り離しができれば、日本は本当の意味での構造改革というプラスを、現実的なマクロ経済政策(補正予算も含む)に組み合わせることができるわけだから、全体もプラスになる。
しかし逆に今のスタンスのまま暴走すると、景気も市場もガタガタになり、その対応に追われるようになったら、本当の意味での構造改革どころか、K政権自体が危うくなりかねない。
すでにK政権は、量的な部分に関しては、少しずつ現実路線へ動き出しているように思えるが、動きが遅いだけでなく、なぜ、この切り離しが必要なのかという点を国民に説明しようとする気配がまったくない。
しかもその一方で、彼らは不良債権処理を最優先にするなどとタンカを切ってしまった。
私は、最終的には方向修正が行われると見ているが、それまでは市場も経済も、シートベルト着用サインの点灯ということだろう。
ということは、年間の財政赤字を三○兆円に抑えるとか、二〜三年でプライマリー・バランスを目指すという量的な話は、後に浮上した話であって、本来は本当の意味での構造改革に専念しようというのが合意内容だったのである。
政治の現実から見ても、K首相にとっては、質的な改革や変化を追求することに専念し、量的な判断は現実路線に戻すことが、結局は質的な改革を成功させる最も効率的な方法となるはずである。
景気が底割れしてしまったら、構造改革への勢いは瞬時に失われてしまうからである。
しかも実際の質的改革となると、既得権益を恐れぬK政権にしかできないものが多々存在する。
日本経済が直面している本当のチャレンジは何かということを考えてみたい。
不良債権問題も財政再建問題も、両方ともいわばバブルでおかしくなった経済の戦後処理なのである。
これは時間をかければ必ず解消するわけで、そういう意味では将来に対する話ではなく、むしろ戦後処理という後ろ向きの話である。
そこで日本経済の本当のチャレンジは何かと考えた時、それは財政再建でも、不良債権処理でもなく、家計の高貯蓄に対する企業の「借金拒絶症」だと思われる。
これまでも現在も、企業は一生懸命に借金返済をしてバランスシートをきれいにしようとしているが、その結果、今では全体の二割ぐらいの企業はバランスシートの問題を解決している。
実際に上場企業のなかでも全体の二割の一○○○社弱はお金を借りて投資している。
ところがその二割の企業を見ても、借金に対してものすごい拒絶反応を示している。
実際にバランスシートはきれいで金利も低いのに、なかなかお金を借りようとしない。
借りてもほんのわずかしか借りようとしない。
事実、企業経営者のところに行くと、「うちはもう借金はごめんだ」と言う。
そして設備投資をやるにしても、外部から資金を調達するのではなく、すべて自社のキャッシュフロー内でおさめようとしている。
まさに借金拒絶症である。
もちろん個々の企業経営者の視点から見れば、無借金経営以上の健全経営はないと言えるが、その一方で、日本では家計が莫大な貯蓄をしている。
ということは、誰かがこれを全部借りて使わないと経済は回らないのである。
二○○○年末までのアメリカのように貯蓄率がゼロの国で、企業がキャッシュフロー内で投資をやるのはけっこうなことだが、日本のように家計があれだけ一生懸命貯蓄しているのに、企業がキャッシュフロー内での投資しかしなかったら、民間の貯蓄と投資は永久にバランスしないことになる。
ということは、デフレギャップが残ったままになってしまい、これを埋めるために、政府は半永久的に財政赤字を出し続けなければならなくなってしまう。
このいつになっても民間の資金需要が回復せず、財政赤字を出し続けなければならないシナリオこそ、日本経済にとって最悪のシナリオと言えよう。
実は、一九三○年代の大恐慌を経たアメリカでも、まったく同じことが起きた。
三○年代に借金返済を強いられたアメリカの企業経営者たちは、そのあまりの苦しさに二度と銀行の顔など見るものか、借金など孫の代まで許さないと遺言状に書いたのである。
アメリカではルーズベルト大統領のニューディール政策による積極財政や第二次世界大戦、あれだけ積極財政をやって、あれだけ財政赤字を出して、なぜ金利が正常化するのにこんなに時間がかかったのだろうか。
その答えは、今のアメリカの貯蓄率からは想像もできないが、当時の多くのアメリカ人たちは、一九三○年代の借金返済の苦しみがあまりにも骨の髄までしみこんでしまい、二度と借金などするものかという行動に変わってしまったからである。
だから、いつになっても資金需要は出てこないで、金利はいっこうに上がらなかったのである。
そういう状況がアメリカで三○年間続いた。
大恐慌の一○年はともかく、景気がよかった第二次世界大戦と朝鮮動乱の二○年も金利は上がらなかったのである。
今の日本の財政赤字に対して、やがて金利は急騰して日本の財政政策は行き詰まってしまうから財政再建をやらなければいけないと、財務省の人たちはさかんに言っているが、日本の長期金利は下がる一方でまったく上がる気配を見せない。
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